One's habitat Blog

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カリノテトラオドン サリヴァトール

カリノテトラオドン サリヴァトール

Carinotetraodon salivator

f:id:Oneshabitat:20180928203849j:plain⚪︎⚪︎アカメフグの名がなく、学名呼びされているこの魚は1995年に記載されたマレーシアのサラワク州固有の淡水フグです。ゼブラパファーなんていう流通名もついていたりしますが、好きじゃないので学名呼びします。学名呼びに関しても、sali"va"torですので、サリバトールではなくサリヴァトールが発音としても正しいです。いちいち細かいことにうるさいですが、勘弁してください。

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そもそもこのフグはとても珍しく、日本への入荷も10年前を境にめったに見なくなってしまいました。ところが、この2018年の7月にポロっと入荷がありました。この話は今回あまり関係がないのですが、一応入荷があったよという話として書いておきます。もうこの先様々な事情で入荷はないとか。今回書くのは現地での採集記です。ついに野外でカリノテトラオドンを見つけるという人生における趣味の目標の一つを叶えました。

カリノテトラオドン採集記

2013年にボルネオアカメフグを購入し、1年ほど飼育したところで冬に凡ミスで落としてしまいました。また飼いたく思い、入荷を待ったのですが待てど待てど入荷りません。そして究極の決断をしました。入荷がないなら採りにいけばいい。これほどまでに魅了されたボルネオアカメフグとまだ見ぬ縞模様を持つアカメフグを探しに。

2016年2月。ボルネオ島サラワク州へ人生で初めて向かいました。調べてもらえればわかるのですが、10年以上前の先人の採集記がネットには埋もれています。サラワクにはボルネオアカメフグ Carinotetraodon borneensis とサリヴァトール Carinotetraodon salivator が分布しており、どちらも難なく採集できている記述でした。それらの記事を参考にポイントの選定を行い、1カ所はポイント特定もできました。はっきり言って楽勝だと思っていました。期待を胸に初のマレーシアかつ憧れのボルネオ島へ降り立ちました。普通はボルネオ遠征といえばコタキナバルですが、目的のカリノテトラオドンはサラワクにしかいないので、手間をかけてまでサラワクへ来ました。

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まずはボルネオアカメフグを狙い川幅3m程度の濁った川に網を入れたところ、採れたのはクローキンググラミーとマレーゴビー。ここは大して期待していなかったので、初日はこんなもんだろうと他のポイントへ期待を寄せて宿に戻りました。今回行けるポイントは3ヶ所のため、残り2ヶ所。次はクリアウォーターのポイントへ向かいました。

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ここではブセファランドラを見つけることも目標にしており、ブセは見つけられましたが上流すぎたのかフライングフォックスやボルネオプレコしか採れず。少し焦りが見え始めます。最後に例のポイント特定できた地点へ向かいます。

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そこで目にしたのは底が見えないほど濃いブラックウォーターの小川でした。初めて見たブラックウォーターの川には感動しました。期待に胸を高鳴らせ、早速ウェーダーを履き、網を入れます。まず採れたのはラスボラ カロクロマ。真っ赤な身体に濃いメタリックグリーンの斑。美しい。次にはプンティウス ペンタゾナ ジョホレンシスが網に入り、熱帯にいることをさらに実感します。そしてブラックウォーターは不思議で、手を擦るとキュキュッと脂分が取れたかのような感触を覚えました。ウーロン茶に浸かっているような感覚です。底床は真っ白な泥で、優秀な泥パックになりそうなとても気持ちいい泥でした。日本の川との大きな環境の違いはとても新鮮でした。引き続き網を入れていくと、レッドラインラスボラやキノボリウオ、その他種判別できない初見魚など色々とショップで売っているような熱帯魚が採れました。とても楽しい。ですが、網を振るえど網を振るえどアレが、そうフグが入らない。ここに来れば採れるという気持ちで来ていたので、だんだんと焦りが募ります。赤道直下の炎天下の中、暑さと疲労と焦りで汗が止まらなくなりました。まさか採れない?確かにあの記事は10年以上前のもの。環境が変わって種組成が変化していてもおかしい話ではない。だが、単純に採集の技術が足りずにスカしている可能性もある。とりあえず出来る限り網を振るい続けよう。そうして黙々と網を振り続け、周辺でエントリーできる場所には出来る限り入り網を振ってみました。そしてタイムリミット。採れなかった。ここまでして採れないか!声を震わせながら吠えました。費やしたものと自身の力不足に押しつぶされながら帰路につく。しかし、心は折れませんでした。またこの地へ来ると、リベンジを誓った。

2017年3月、再度サラワクへ降り立つ。今回は日程を前半後半 山と川とに二つに分け、リスク分散を図りました。山では両生類爬虫類昆虫類を探し、ここでは書きませんが良い成果を得られました。今回の川でポイントとして設定したのは、中流のクリアウォーター域です。

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まず1ポイント目は見た感じ良さそうな環境でしたが魚が少なく、大きめなラスボラしか目視できませんでした。網を入れて採れたのはアーモンドスネークヘッド。そうそうに見切りをつけ、次のポイントへ向かいます。ここはかなり魚影が見え、期待が高まります。Rasbora caudimaculataや淡水サヨリの一種 Hemirhamphodon kuekenthali、スパーニーイールなどまた興味深い魚がいくつか採れましたがフグは採れず。そして前回のブラックウォーターポイントへ再度訪れるも採れず。ちょこまかと他にも川を見ましたが、ブラックスネークヘッドやラスボラ サラワクエンシスなどの魚を追加する程度で、本命のカリノテトラオドンは姿を現しませんでした。今回もダメだった。心が折れかけます。しかし未練は言うまでもなくあり、定期的に情報収集をしていると超有力なポイントを発見できたのです。爬虫類でもまだ見たいものはいくつもあるので、また行こうかなと計画をぼんやり練り始めました。

2018年8月。3度目のサラワク遠征です。前回と行程はほとんど同じで、最後に超有力なポイントへ向かうことを追加した計画にしました。しかし、意気揚々と成田に向かった私たちを待っていたのは飛行機の欠航という不運でした。機内泊で朝に現地へ着き、山へ向かうはずが成田でホテル泊になり、振替便は12時間後。現地には夜着いてしまい、山に向かうこともできず空港のベンチで12時間耐え忍ぶことに。ツラいだけでなくまる丸一日消し飛ぶ最悪のスタートとなりましたが、アンラッキーはラッキーで返ってくると信じているので良い成果が出るぞと前向きな自分。山での成果はヨロイオオムカデを始めに、色々ととても良いものでした。そのうちいくつか記事を書きます。山を満喫し、後半日程で川へ。上流域や前回たくさん魚が取れたポイントへ再度訪れ、ヒレナマズやローチなど前回採れなかった魚を採集して楽しみました。そして満を持して超有力ポイントへ。

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しかし、魚が見当たらない。見れてもサヨリ程度。まさかここでもダメなのか?ここがダメならもうお手上げだ。諦めるしかないのか?と暗い思案をしていたら、岸で待機していた同行者が声を上げた。え?ヘビ?と聞き返すと、フグと叫んでいるようだ。心臓が口から飛び出そうになりながらその元へ向かう。フグっぽい何かがここにいたと指す周辺を注意深く見渡したが、見当たらない。高鳴る鼓動を抑えながらフグの好みそうな環境部を睨みつけると、、、。小さく丸い魚影が動いた。

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心臓が跳ね上がり、身体が震えた。フグだ。本当にいた!ここにいると思っていたのはボルネオアカメフグだったため、思っていたより茶色い姿に一瞬戸惑った。だが、その姿はカリノテトラオドンだ。ま、まさかサリヴァトールか?横写真でしか見たことのないその種だと断定はできなかったが、期待はどんどん膨らむ。網を振った。入らなかった。さらに網を振る。入らない。自分の腕の無さを呪いながら、確実に採れるタイミングを狙った。あと少しでいけるという時に、ここにいるから来て!と同行者が声を上げるが、こちらもあと少し。なんとか目の前の個体を掬い、しっかり姿を確認したい気持ちを抑え、呼ばれた先にいた個体も掬い上げた。網には2個体。紛れもなくカリノテトラオドン。そして、サリヴァトールだ。叫んだ。3年の苦労が報われた瞬間だった。夢にまで見たカリノテトラオドンの採集。しかも初めて実物を見れたカリノテトラオドン サリヴァトールだ。どちらも若い個体であったが、どうやら雌雄なよう。嬉しさに打ち震えて、狂喜乱舞した。他に大きめのオスが確認できたが、掬うことはできなかったです。水中動画は撮れました。ちなみにここにはオレンジと黒の縞の淡水ヨウジウオがいたんですけど、網抜けして採れず。今になってなんなのか本当に気になるところです。

3度目の正直、3年の苦労、欠航した甲斐があった。全てが今は嬉しさを更に増幅させるスパイスです。異国の地で目的の生き物を探し出した瞬間の脳を駆け巡るものは言葉にはできません。マレーシアに、サラワク州に、ボルネオの自然に感謝。

 包括的なカリノテトラオドン話は以下のページへどうぞ。

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