オカヤドカリ Land Hermit Crab in Pacific Rim
笹塚諒, 2024. オカヤドカリ: Land Hermit Crab in Pacific Rim. ジェイズ・エンタープライズ, 東京. 82pp.
A5 フルカラー
ISBN978-4-600-01494-0
本書の特徴
・オカヤドカリ科2属18種(2024年9月時点)のうち太平洋に分布する2属14種を8ヶ国で現地観察し、写真を掲載
・図鑑に限らず、環境や生活史、行動などの生態を写真とともに複合的に紹介
本書の科学的取扱い
・オカヤドカリ科 Coenobitidaeの2024年時点における包括的な知見集約
・太平洋に分布するオカヤドカリ科14種の横並び紹介(同定形質)
・新称の提唱
▶︎ Coenobita longitarsis アシナガオカヤドカリ(新称)
▶︎ Coenobita lila ウスムラサキオカヤドカリ(新称)
▶︎ Coenobita compressus ハクボオカヤドカリ(新称)
▶︎ Coenobita carnescens フシグロオカヤドカリ(新称)
▶︎ Coenobita variabilis レンガオカヤドカリ(新称)
・ヤシガニの額角形成の過程を撮影
・オカヤドカリ C. cavipesの種の北限更新(トカラ列島 宝島)
・大東諸島 南大東島におけるオカヤドカリ、ナキオカヤドカリ、ムラサキオカヤドカリ、ヤシガニの観察記録
本書のこだわった点
・各説明の対象(根拠)となるところまで含めて写真を借りずに、全て自己で撮影したことに伴う情報量の奔流
・第1触角と胸脚を畳んでいない、つまり警戒/緊張状態でない写真を8割用意したこと
・引用可能なようにISBNを取得したこと
あとがき追記の四方山話
前作 オカヤドカリ -LAND HERMIT CRAB in JAPAN- は2016年の作品です。正直こちらは学部生の間に何かを残したいという逸る気持ちもあったため、突貫、不足、未熟に塗れていました。つまり、あまりにも改善の余地があったというところです。一方で、刷った部数が少なかったため、ありがたいことに完売し再販希望もいただいていました。嬉しさと同じくらい、改善の余地に触れずそのまま増刷するのも気が引けるというのが素直な気持ち。そして、コンセプトそのままで、読みやすいような再編集改訂は既にご購入をいただいた皆様に申し訳ないとも思いました。
「増刷はしない。」
それを打ち出し、いつかは大きくバージョンアップしたものを出そうと心に決めたのです。なんてことを言いつつ、2017~2021年の5年間は爬虫類と昆虫類を主たる対象として活動してしまいました(?)。キャットゲッコーを何度も探しに行ったり、国産ゴニを探したり、クチサケヤモリを探しに行ったり、長崎離島でクワガタを探したりと。。。コロナ禍となった 2020年からは国内離島を回るしかなくなり、県外移動が自粛されていた際は当時赴任していた長崎県で離島のクワガタを探し、緩和が見られたあたりから国産ヤモリ探しとオカヤドカリ類の北限更新をタスクとしていました。オカヤドカリ類の北限更新にチャレンジする中では本を作ることも頭の片隅に置きながら撮影を続けていました(偉い)。そして2022年の5月頃。ようやく海外へ行けそうな温度感となり、8月に行くことが決まったのです。この時選べた渡航先は覚えている範囲で、タイ、シンガポール、オーストラリア、あと一か所くらいだったかな、、、。かなりの移動の制限があったことと、旅行という体でもあったため、観光地やリゾートエリアで見れる生き物がいるなら少しだけ探す時間を貰えるといった形でした。そうなれば自ずとやることは決まります。海外のオカヤドカリを探そう、と。そしてシンガポールでウスムラサキオカヤドカリを探し出し、初見オカヤドカリ種を見つける興奮を思い出したことで、次回作を本格始動させることを本当に腹決めしました(コロナ禍シンガポール紀行はこちらにまとめております)。国内で撮っておくべきものの大枠は上記北限更新チャレンジの流れで撮っていたため、主たるタスクは海外です。海外遠征をスケジュールの軸にしつつ、ところどころ不足している写真は沖縄本島や生体購入で隙間休みに撮り集めていくことにしました。まずはアカツキオカヤドカリを探しにフィリピンへ向かう計画を練ります。しかし治安の問題から、オカヤドカリ類探しをする以外にまともに他の生き物を探すことができなさそうでした。そうなってしまうと、とある問題が浮上します。同行者を呼び掛けても誰もついてこない。結果、2023年3月ソロ遠征にて行ってきました。フィリピンでソロはちょっとヤバめなんですが、こればかりは仕方ないです。危険度レベル1以下の海外へ行くのに同行者がいないから止めるなんて、そんな選択はしませんよ。
次に向かうはオーストラリア。これも日程を組んでみると、、、。ケアンズ1泊→ダーウィン2泊→ケアンズ2泊といった具合。オカヤドカリ類がいるのはこのダーウィンであり、国内線移動を踏まえると日程的にも費用的にも結構シビアな内容となりました。これもまたこんな行程と価格帯では同行者が集まりません。2023年5月ソロ遠征にて行ってきました。
さらに次はメキシコ遠征。これは流石に他の国とは比べ物にならない危険度であるため、同行者が必要です。とはいえ爬虫類が面白いため、爬虫類要素強めの行程で3人での渡航となりました。この 2023年8月の遠征で太平洋で見られるオカヤドカリ科はコンプリートした形となり、今作 Pacific Rim版で必要な海外の野外写真は集まりました。と言いたかったところでしたが、、、2023年9月にもう1種の再発見報告が出ました。マジか。。。じゃあ行くかと、2023年11月にグアム旅行という形で夜だけ時間を貰って探す急遽の設営をしました。しかし、見つからず、、、。再チャレンジで2024年7月に赴くもこれも見つからず。過去にぽい個体の写真を撮ってはいるので、悔しさはとても大きくありつつもこの方向でまとめる方針としました。ここに関しては他の種より写真が不足している旨ご了承いただけますと幸いです。頑張りましたけどダメでした。。。
趣味の範囲にて国内外で写真を撮り集め、文章を書き、イラストを描き、デザイン構成を組み、ソフトで原稿を作成し、ISBN取得も行い、こんな紆余曲折を経て完成に至ったのがこの本です。生き物屋の自主制作でこれほどの活動量を叩き込まれた作品はそうそうないと自負しています。買って損したはないと胸を張れますし、今回も増刷する気はないので売り切れた後に後悔しないよう、ご検討のほどよろしくお願いいたします。
加えて、本作は書評を掲載いただいておりますので、以下リンク先を紹介させていただきます。
夜の気配 オカヤドカリ研究にて博士号を取得されている視座から書評をいただきました。ありがとうございます。
新・結果オーライ ヤドカリの大型サイトを運営されている視座から書評をいただきました。ありがとうございます。
書評は掲載日順にて随時追加中です!