One's habitat Blog

ホームページ「One's habitat」の付属ブログ。何屋かと訊かれたらオカヤドカリの人です。無断転載ダメ。

九州南東部のムラサキオカヤドカリ

九州南東部のムラサキオカヤドカリ

Coenobita purpureus in SouthEast part of mainland Kyushu

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ムラサキオカヤドカリ

 九州の南東部は黒潮の影響を受けるため、最も寒冷耐性を持つムラサキオカヤドカリは流れ着いて定着しています。再生産も確認されているため、温暖化に従い個体数は増えていくことでしょう。しかし、九州本土の全ての海岸に生息しているわけではありません。条件が整っている必要があります。まず、最も重要となるのが黒潮の影響を受ける地域であることと冬場の最低気温が5度を下回らないことです。この条件を満たさないとそもそも流れ着いてきませんし、着いても死滅します。そして上陸できる環境があることです。①広い砂浜と②海中にてメガロパ(グラウコトエ)が着底しやすいサンゴの代わりとなる岩石環境、そして③豊富な巻貝類の生息。これら3つがしっかり用意されていれば完璧です。多少条件が欠けていてもいないこともないですが。

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良好な海岸環境

 天然記念物の生息地をどこかわかるような写真にて説明することはナンセンスなんですが、既にオープンアクセスの短報にて記載されていますし、ここは場所自体も天然記念物ですのでまぁいいかなと。

 さらに良質な海岸林が広がっていることも重要です。なんと言うかつまるところ、沖縄のビーチみたいだなと感じるような場所ということです。

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良質な海岸林

 ここなんかは植生も亜熱帯植物ですので、もう本当に沖縄感が出ています。オカヤドカリ類がいないわけないです。正直、ここついた時は絶対にいると確信できましたし、着いてものの1分で見つけることができました。千葉県のムラサキオカヤドカリ確認地点も条件は同様な場所で、何と言うかエセ南国感をひしひしと感じるところでした。

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ムラサキオカヤドカリ

 日本本土のオカヤドカリ類はそこそこ論文出ているので、興味があれば調べてみると太平洋沿に住んでいる人は近くの発見があるかも知れませんよ。

 最後に言うまでもないですが、一応。オカヤドカリ属は国の天然記念物に指定されているので、捕獲等の現状変更は禁止されています。沖縄じゃないから良いとかそう言うわけではないので注意。

イキヒラタクワガタ

イキヒラタクワガタ

Dorcus titanus tatsutai

イキヒラタクワガタ

イキヒラタクワガタ 71mm

 イキヒラタクワガタ壱岐諸島に分布するヒラタクワガタの固有亜種です。日本で2番目に大きくなるヒラタ(もちろん1番はツシマ)で壱岐を代表する昆虫なのですが、壱岐はノコギリのギネス島ゆえに若干存在が霞んでしまっています。長崎県の代表3離島域にはそれぞれ固有亜種がいるため長崎ヒラタはめちゃくちゃアツいんですけどね。どれも大顎の長い和製パラワン系ゆえに迫力とカッコよさは流石なもの。というわけで今回70超え長崎離島ヒラタコンプのため、イキヒラタを狙って2021年6月25〜27日にて壱岐島へ行ってきました。

Dorcus titanus tatsutai 

イキヒラタクワガタ

 どうやら壱岐のクワガタはバナナトラップや灯火に来にくいらしく、樹液が出ている木をルッキングする採集方法がメインとなります。昼の間に木を探すのですが、これが全然見つからず、、、結局2本しか見つからなかったのですが、昼の時点で50mm程度のオスが来ていた木に夜再訪したところ71mmが張り付いていました。上の写真はその時に一切触らずに撮った生態写真です。70超えを採るために来たので満足な結果です。流石に70後半なんてガチ勢的目標は掲げませんので。

 

 昼間は正直、木探しと観光を半々で楽しんでいたので、本ブログでは珍しいのですが観光写真もいくつか載せます。

美しい断崖

海岸洞窟

沖縄と比肩する海の綺麗さ

断崖の龍神神社

提灯の灯った稲荷鳥居

 壱岐の生物相はほぼ九州本土と同じため、生き物屋で惹かれるのはノコギリと亜種ヒラタ好きな虫屋くらいだとは思いますが(イキオサムシが一番だという意見は賛同しかねる)、風景とノスタルジー感じる観光はかなり楽しめますし壱岐牛や赤ウニは格別に美味しいのでぜひ行って欲しいですね。

サキシママダラ

サキシママダラ

Lycodon rufozonatus walli

Lycodon rufozonatus walli

サキシママダラ(石垣島

 サキシママダラはアカマダラの先島諸島亜種で、八重山宮古においても分化が起きています。色味に強く表れており、八重山が黄色っぽく、宮古がオレンジっぽいです。発色の良い宮古個体群は隈取り模様の様で非常に格好良いのですが、保全種ゆえ採集は禁止。というわけで写真で楽しもうとなるのですが、動き続けるのでめちゃくちゃ撮りにくく、The普通種な割にちゃんと撮影している人が少ない印象を受ける本種の首をもたげてくる動作(ここまで主語)は愛嬌があるのでうまく捉えれると可愛い感じになります。若い個体は結構路上に出てくるので、畑沿いなんかを流せば大抵見れます。立派な個体は山中で見ましたね。もちろん臭い汁を出すので下手に手を出すことはお勧めしませんが、ちゃんとした写真を撮るためには片手を犠牲にしてください。私は蛇の臭いやつは結構苦手なんで本当に手を出したくない。そういう躊躇があるんで割とよく逃げられます。

Lycodon rufozonatus walli

サキシママダラ(池間島

 最近オオカミヘビ属に統合されたマダラヘビ。なんと言うかオオカミはスルシュルリって感じで、マダラはノソニョロリって感じなのでやっぱ感覚的に違うんですよね。まぁ大した話では無いですが。

オオテナガエビのグアム-ミクロネシア-からの初記録

オオテナガエビのグアム-ミクロネシア-からの初記録

Fuke, F. and Sasazuka, M. 2021. First record of Macrobrachium grandimanus (Randall, 1840) (Crustacea, Decapoda, Palaemonidae) from Guam, Micronesia. Check List 17(3):759-763.

First record of Macrobrachium grandimanus (Randall, 1840) (Crustacea, Decapoda, Palaemonidae) from Guam, Micronesia リンク

オオテナガエビ

  オオテナガエビ Macrobrachium grandimanus (Randall, 1840) は汽水性のテナガエビで、左右非対称な第二胸脚(鉗脚)が特徴です。分布がハワイ等ポリネシアエリアと沖縄等南西諸島エリアに分断されており、この2集団は遺伝子解析からも分化が起きているとされています(タイプロカリティがハワイですので、南西諸島エリアの集団が隠蔽種)。

 2018年秋のグアム遠征でCaridina variabilisを探していた際に、ついでにシオマネキ類を探そうと河口に寄ったところエビの姿が見えました。網を入れてみたらなんとオオテナガエビが。グアムでは記録がないどころか、分布の分断された空白エリアであるミクロネシアエリアで見つかったわけです。さてさてとサンプル数確保のためうろうろしていたら、遊びに来ていた現地の少年クリストファー(当時12歳)に声をかけられました。このグアム遠征はソロだったので、外国人が綺麗でもない河口で一人金魚網持ってチョロついてたらそりゃ気になりますね。何してるの?とかどこから来たの?とか色々訊かれつつ拙い英語で話してると、こっちにもいるよとエビ探しを手伝ってくれました。謝辞入れたかったけど、連絡もとれないですしファーストネームしかわからないし残念。

オオテナガエビ

 そしてテナガエビといえば知り合いにがいるので遺伝子解析、執筆等相談して論文を書こうとなりました。ありがたい。結果としてグアムのオオテナガエビは南西諸島の集団と近いことがわかったので、隠蔽種側です。西太平洋における両側回遊性種の分布拡散にかかる重要な論文になると思います。これ結構面白い結果で、個人的にはフィリピンから流れてきているのではないかなと思っています。南西諸島の生物がグアムに流れ着いていると言うよりは、グアムの生物が小笠原諸島に流れ着いている方向ですので、フィリピン辺りの集団が南西諸島とミクロネシアに分かれて流れてきていると思います。つまりフィリピンからはオオテナガエビの記録は確かないんですが、隠蔽種クレードがいると個人的に考察しています。まだまだこの辺興味が尽きないのでまたそのうちグアムに行って色々やりたいです。

 

他のグアム論文はこちら。

ones-habitat.hatenablog.com

ones-habitat.hatenablog.com

イワサキクサゼミ

イワサキクサゼミ

Mogannia minuta

イワサキクサゼミ

 春の南西諸島には日本最小のセミが姿を現す。イワサキクサゼミはその名の通り、樹木ではなく草本によく見られ、ジーと鳴きます。警戒心も強くなく、低い位置にいるので簡単に素手で捕まえられます。チッチゼミとは大違いですね。

ミヤコヒキガエル

ミヤコヒキガエル

Bufo gargarizans miyakonis

ミヤコヒキガエル

 南西諸島唯一の在来ヒキガエル宮古島とその周辺島嶼に分布していますが、大東諸島に移入しています。宮古島市では保全種に指定されているので、大東諸島で採集されたものが市場流通しています。保全されていると言うことは現地ではそんなに個体数は多くないのかと思っていたのですが、普通にウジャウジャしていました。宮古島で最も見つけやすい両爬だと思います。ニホンやアズマのような土茶色から写真のような鮮やかなオレンジ色まで体色は個体差が見られました。

ミヤコヒキガエル

 どうやらアズマやニホンより警戒心が強いようで、結構逃げていきます。ヒキなのに若干写真が撮りずらかったのはなんか納得いきませんね。でもスタスタ歩いて逃げていく姿は見ていて面白いです。

コムラサキオカヤドカリ分布北限更新

コムラサキオカヤドカリ分布北限の更新

Coenobita violascens

 コムラサキオカヤドカリはインド洋から太平洋の熱帯亜熱帯域に広く分布する陸棲甲殻類で、日本が分布の北限となっています。その中でも沖縄県教育委員会の調査で沖縄本島が北限であると報告されていましたが、今回2020年7月の徳之島遠征で当歳と思われる個体を複数見つけることができました。これにより種の北限の更新と、鹿児島県にて確認されているオカヤドカリ種の追加となりました。

コムラサキオカヤドカリの分布

 正直、奄美群島コムラサキオカヤドカリが1匹もいないわけはないと思っていましたが、なかなか渡航機会を得られずただそう思っているだけになっていました。しかし、話の流れで2泊にて徳之島へ行くことになり、そのうち1晩はソロということでこの機会は逃せないとちょっと本気を出すことにしました。そもそも本種は低温耐性が低い上に要求環境が他の種より狭いため、沖縄本島でも稀種です。そのため、ポイント選定をしっかりとして1日でケリをつけられるよう準備して行きました。いざポイントに着くとムラサキオカヤドカリやナキオカヤドカリの当歳個体がいるわいるわで、やはり優先種は言うまでもなくこの2種ですね。しかし根気良く小さなオカヤドカリ達を片っ端から眺めていったところ、求めていたものが見つかりました。そして、意気揚々とこの後海岸林に移動したところで次はヘビの短報ネタを拾うことになるとは思いもよらず、、、。

 報告は以下のリンクにて出版済みです。和文ですので興味があればぜひ。
徳之島初記録のコムラサキオカヤドカリ - Fauna Ryukyuana(59)